ワーニャ伯父さん



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初台・新国立劇場小劇場、2017.08.31.thu.18:30開演(昼夜2回公演の夜の部)1階、D4列2番。

作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:段田安則、宮沢りえ、黒木華、山崎一、横田栄司、ほか。


: ご存知、チェーホフ。
: うーん、どうかしら?学生時代に読んでるはずだけど。
: そうなんだけどね、僕も「三人姉妹」と「かもめ」は読んだと思うけどあまり覚えていない。映像作品
  でいうと「機械じかけのピアノのための未完成の戯曲 ('76)」を見たくらいかな?
: ニキータ・ミハルコフね。
: あとは・・・、中原俊の「櫻の園」2部作。
: ・・・・・何だか寂しいわね。
: そうだね、全然お馴染みじゃないね。
: 彼はもともと小説家で晩年に戯曲も書いたみたいなことらしいけど。
: 知らない、短編小説読まないし。
: この戯曲も決して小難しいお話ではない。
: 青春の終わりとロシア革命による貴族の没落を重ね合わせてるのかな、という気がした。
: なるほどね、貴族社会というのがいまいち良く分からないんだけど。
: ただまあ、非常に普遍的なお話だと思う。
: 学者はお金を稼がなくて勉強ばかりをする。
: その娘と死別した妻の兄に当たるワーニャが領地の農園で働きに働いてその学者に仕送りをしてい
  る。きっと論文の出版にかかる費用なんかも全部負担してるんだろう。
: 学者は再婚して若くて美しい新妻と都会暮らし。
: どー考えたって学者の方が得だよね。
: まあ損得の問題じゃないから。
: ところが学者は出版した本が売れないし評価もされないというので活動に行き詰まって領地へ戻って
  くる。
: 領地の名義人であるソーニャは先妻の子だから現妻は継母ということだね。
: 当然ぎくしゃくする。
: 彼女が領地に残って農園を経営していたのも新妻への遠慮みたいなことがあったのかもしれない。
: 遠慮というかまあ、父親を取られたみたいな感情もなかったとはいえないだろうし。
: だから彼女は我慢に我慢を重ねてるんだよね、辛い労役をこなし感情を抑えて生きている。
: この健気な感じが黒木華さんにピッタリだね。
: そして彼女が淡い恋心を寄せる村の医者は自分の義母のことが好きときてるからますます鬱屈は
  溜まっていく。
: 彼女が医者に恋する場面や義母と和解する件とかはセリフはそれほど変えてないんだろうけれども
  かなりポップな処理をなされてるのかなという印象だね。
: そうね、かなりあっけらかんと描いている。
: 義母のエレーナのキャラにしても田舎暮らしに辟易して苛立つエキセントリックな女性というよりはた
  だ漫然と暇を持て余してるというような呑気な女性として描かれている。
: だから医者との情事も夫への腹いせというよりは無邪気な好奇心から導かれたもののように見える。
: この医者というのが森林の伐採による環境破壊に警鐘を鳴らすなどエコロジストでもありかなりのイン
  テリなんだけれども女心には全く疎い。
: ソーニャの切ない乙女心になんて全く気付かない。
: いるいるこういう男って。
: ところでソーニャというのは心は綺麗だけれども器量が悪いという設定なんだよね?
: そうね、宮沢りえさんは超美人で黒木さんはそうでもないという体ではあるけれど。
: ちょっと無理があるよねえ?黒木さんあんなに美人なのに。席が遠くてよく分からなかったんだけど顔
  にソバカスでも書いていたんだろうか?
: そこまではしてないんじゃないかしら?晩年の森光子が少女の役をやってたくらいだから舞台って何で
  もありなんじゃないの?
: まあね、そうかもしれない。
: ソーニャがワーニャに寄せる同志愛みたいなものがとても泣かせる。
: 彼女は父をワーニャは亡き妹の夫を懸命に働いて支えていた訳だから。
: ところがその学者にはそれほどの才能のなかったことが年を経て明らかになってしまう。
: ワーニャはどうしたって治らないよね、俺の青春を返せってことになる。そのうえ、学者の妻であるエレ
  ーナに横恋慕してるんだものね。
: あとエレーナとワーニャのそこはかとない腐れ縁な感じも微笑ましいね。
: そういう関係がベースにあるから余計にワーニャは学者のことが許せない。
: そりゃそうよ、いつかは出世すると信じて神のように崇めて彼のために身を粉にして働いたんだもん。
: でも、して貰った方はそれほどの恩義も感じていない。
: よくあることだね、それが当然だと思っているから。
: 分からないものなのよ、誰かに自分の代わりをさせてたってことを。
: 特に当時のインテリならなおさらだよね。
: ソーニャは実の娘だしある種の諦觀を持っているから父親の無神経な言動にも何とか耐えられるんだ
  けれどもワーニャはそうはいかないし、また彼女は父親がワーニャに対して軽々しい態度をとることに
  もとても心を痛めてしまう。
: そこへその学者が領地を売ろうといい出すものだからあらゆる緊張は一気にピークに達することになる。
: この辺の持っていき方はさすがに上手いよね。
: ねえ、誰に向かってそういうこといっているのよ。
: いやまあ、チェーホフにね。
: 結局ソーニャはそれほど感情を爆発させることなく物語は終わる。
: 彼女の心は一体何に支えられているんだろう?
: 死んだらそこで休めるんだからそこまでは歯を食いしばってでも働こうという世界観というか。
: 彼女はもう天女の領域だね、とても生きている女性とは思えないほど心が清らかで実在の人物という
  よりは働くことの尊さを表現するためのメタファーというか。
: そうね、あなたも額に汗して働くのよ。
: 汗かあ?ただまあ、汗疹(あせも)になってもいけないしね。
: やれやれ、もう滅びなさい怠け者のキリギリスみたいに。








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